敏郎さんの出演作を何本も観続けるうち、軽い違和感を覚えるようになった。
 
出演者がカブリまくってるぞ、と。
 
例えばある作品で敵のギャング役で共演した平田昭彦が、別の作品では軍服の頼れる軍参謀役として共演、みたいな。たまたま続くというレベルではなく、どの作品を見ても出演俳優の顔ぶれは同じ、ただ配役を変えているだけ、そんな印象。ていうか印象も何も実際そうだった、これこそがなんとなく聞いたことのある「五社協定」による弊害だと実感した。
 

良く言えば俳優の映画会社への永久就職、悪く言えば奴隷制度に近い。自社の作品にしか出演できず、毎回新鮮味を出すための俳優たちの苦労が偲ばれるが、それ以上に、他社の素晴らしい監督や俳優とのコラボの機会を奪ってきたのだから罪は大きい。
 
敏郎さんを起用したいと思っていた監督は少なくなかっただろうし、協定などなければ一体どんな興味深い作品や役柄が生まれていたことか、もしかしてまさかの小津作品に出演なんてこともあったかもしれない。黒澤監督は『羅生門』以降も京マチ子を起用したかったが、協定締結後は大映が拒否して叶わなかった。もし協定が存在せず京マチ子を起用できていれば、監督と敏郎さんのフィルモグラフィーに恋愛映画が1、2本加わっていただろう。敏郎さんに限ったことでなく、映画界全体が大損した協定だったと思う。
 
 
敏郎さんの作品を見ることは即ち日本映画の歴史を見ることに等しい。
次はプログラムピクチャーについて。
 
 

Science Fiction – Double Feature
Dr. X will build a creature
See androids fighting Brad and Janet
Anne Francis stars in Forbidden Planet
Oh-oh at the late night, double feature, picture show.
I wanna go, oh-oh, to the late night double feature picture show.
By RKO, oh-oh, at the late night double feature picture show.
In the back row at the late night double feature picture show.

サイエンスフィクション-長編2本立て
ドクターXはクリーチャーを作ったんだ:
ご覧よ、アンドロイドがブラッドとジャネットと戦っているよ
アン・フランシスはスターだったね「禁断の惑星」で
Oh-oh、深夜には、長編2本立て、映画ショウ
僕は行くよ、oh-oh、深夜には、長編2本立て、映画ショウ
RKOの、oh-oh、深夜になったら、長編2本立て、映画ショウ
後ろの列の立ち見で、深夜になったら、長編2本立て、映画ショウさ
 
  from “The Rocky Horror Picture Show/ロッキー・ホラー・ショー”

 
 
「プログラムピクチャー」という言葉は、敏郎さん主演の冒険活劇『奇岩城の冒険』『大盗賊』や稲垣浩監督作品を見る流れの中で初めて目にした。ネットで調べて、だいたい以下のようなものだということで理解した。
 
 
50年代から60年代の日本映画絶好調な頃、巨大で旺盛な需要を逃さぬために規模(予算)と質(ストーリー)と見た目(スター)を計画的に管理することによって量産が可能になった娯楽映画作品
 
五社協定のもと、主演スターありきのスタークオリティを持った予定調和な娯楽作品
 
長編2本立てを1、2週間で総入れ替えするスケジュール優先のスピードプロダクト
 
黒澤、溝口、小津、成瀬等の巨匠はこのシステムに含まれていない
 
 
私が読んだ文脈ではクオリティの面であまりいい意味で使われていなかったプログラムピクチャーという言葉だが、クオリティよりはシステム、ビジネスモデルについて述べる際に使用するのが妥当ではないか。手堅く順当に収益を上げ、それは、金は生まないが芸術的価値/資産価値の高い作品を制作し続けるための資金源になっていただろうから、プログラムピクチャーは必要な作品群だったと言える。
 
手早く量産したからって駄作になるとは限らない。むしろ逆で、ある程度のクオリティが担保された名人芸が光る作品がほとんど。演技のクオリティも大作と変わらない。『駅前シリーズ』とか『無責任シリーズ』とか『社長シリーズ』を見ればわかる。いずれにしても作れば人が入る、今じゃ考えられないほどの人気が映画にはあった。日本全体がそんなサイクルを回し消化するパワー、やる気に満ちていた。敏郎さんはその渦中で巨匠の芸術作品からラブコメ、ヒーロー活劇まで縦横無尽に活躍していた。
 
週末ごとに上映時間ごとに満員になる東宝系映画館の大きなスクリーンの中で。
 
全てはテレビがその座を奪うまでの出来事。いつか再びブラウン管から巨大IMAXスクリーンへ還るまでの間。
 
最初プログラムピクチャーという言葉を聞いた時、冒頭に引用した『ロッキー・ホラー・ショー』の歌が真っ先に思い浮かんだ。似て非なる、ただノスタルジーだけが同じかな。
 

 
冒険活劇 長編2本立て
東宝はゴジラを作ったんだ
ご覧よ、ゴジラが芹澤博士と戦っているよ
三船敏郎はスターだったね『宮本武蔵』で
Oh-oh、週末には、毎週入れ替え長編2本立て、映画ショウ
僕は行くよ、oh-oh、来週も、真新しい長編2本立て、映画ショウ
東宝の、oh-oh、敏郎さん主演時代劇、鉄板の社長シリーズと長編2本立て、映画ショウ
後ろの列の立ち見で、
それでも敏郎さんが出てれば僕は行く、
立ちっぱなし長編2本立て、
映画ショウさ