今年最初の驚きは仲代さんがツイッターを始めたことだった。
 
仲代さん主演6月公開の映画『海辺のリア』の宣伝を兼ねてのコラボアカウントとのことだが、キッカケはどうあれ快挙である。あの卯之助がツイッターを始めるとは全く思いもよらず、誰がこんな日を想像できただろう?でも考えてみれば現代に生きて役者を続けていれば起こり得る、不思議でも何でもないことなのかもしれない。重鎮の飾らないツイートに今やフォロワーは3万人を超えた。
 
日本映画史を体現する現役の役者、仲代さんはこんなにも今を生きている。
 
『海辺のリア』の予告編を見た。認知症を患う男、桑畑(!)兆吉。仲代さんのグッとくる存在感。映画の宣伝が終了しても仲代さんはツイッターを続けるだろうかと考えると、ソレはない気がして少し寂しい。何しろ今ではすっかり仲代さんをリアルで身近な存在に感じているからだ。ソーシャルメディアは時に侮れない。
 
その昔、永田町と赤坂の境「ニューラテンクォーター」というVIP御用達超高級ナイトクラブで、勝新太郎、中村錦之助、石原裕次郎、三船敏郎の4人が集い、誰が一番男として粋か、300人収容できる広さの店を一夜貸し切ってスタイルを競った。敏郎さんは最年長の41歳、勝新30歳、他の二人はまだ20代、ある意味絶対負けられない戦いを敏郎さんはどう戦ったのか。詳細は『赤坂ナイトクラブの光と影 ニューラテンクォーター物語』で。当時それぞれが仕事もプライベートも絶好調のスターであり、眩くも酔狂な、桑畑三十郎なら「危ねえ危ねえ」と避けていく芝居がかった有頂天、そんな社交を商売していたコレが昭和のソーシャルであり鷹揚さであり。
 

でも300超キャパのナイトクラブを4人で貸し切る意味がわからないな敏郎さん。

意味なんてない、お前もスターになればわかる。
 

この苦み走った男、まだ39歳。
 

その夜、敏郎さんの繰り出す純正男前の手練手管一部始終を目撃した人たちが本当に羨ましい。もしもあの時代にInstagramがあったなら、敏郎さんには4大スターをバッチリ収めた自撮りショットを期待できた。ツイートは想像できないがインスタする敏郎さんなら想像できる。三船写真館で腕を磨き、戦禍から自らを救い、役者への道を開くキッカケにもなったプロ級の撮影技術を敏郎さんは持っている。
 
優れた撮影技術を持ち、カメラを手にする姿の写真も残されているというのに、肝心の敏郎さんが撮った写真そのものを見たことがない。敏郎さんの趣味嗜好センスが色濃く映る写真の数々を、ファンならば当然見てみたいと思うだろう。敏郎さんの選ぶ被写体、撮りたいと思う場所、捉えたいモノ、人に興味がある。好きな人の好きなものは気になる。
 
“君とクラウディア・カルディナーレはミフネのお気に入りの女優なんだよ”

“トシロー・ミフネが私を好きですって!?一緒にロスに連れてって”
 
これは1969年公開のハリウッド映画『Paint Your Wagon』で共演したジーン・セバーグとリー・マービンの会話。前年1968年『Hell in the Pacific』で敏郎さんと共演したリーは、敏郎さんをゲストに迎えたパーティーに出席するためロスに移動中、セバーグの元に立ち寄って上のような話に。思わぬ報告に彼女は大喜び、敏郎さんに会いたがった。
 
ジーン・セバーグが敏郎さんのタイプとは意外。
 
敏郎さんは社交辞令でそんなことを言ったのかもしれないし、リー・マービンがテキトー言ったのかもしれないし、そうじゃなくて本当にジーン・セバーグが好きなのかもしれない。真相は定かではないが、クラウディア・カルディナーレのほうは真実味がある。敏郎さんのタイプだと思う。妻の吉峰幸子氏はクラウディア・カルディナーレに似ている。
 
ちなみに『太平洋の地獄』の舞台であるパラオのあの美しい遠浅のビーチ、現在は何故か「リー・マービン・ビーチ」と呼ばれているらしい。島のワイルドさといいエキゾチックなムードといい、あのビーチはどう考えても「ミフネ・ビーチ」だと思うが。
 

ビーチに名前がつかなくても、敏郎さんにインスパイアされ直接的/間接的にトリビュートするアーティストやコンテンツは尽きない。古くはアニメ『サムライチャンプルー』のオープニングタイトル、決戦の時、菊千代が何本も土に突き刺した刀形がデザインモチーフになっていたし、最近ではこのイラストのようにカナリ三十郎に寄せてきているものもある。
 

映画愛の大暴投『CUT』のアミール・ナデリ監督は、主演の西島秀俊に対し、黒澤作品で演技する敏郎さんを示しながら“これらの俳優はエベレストの頂上に登った人間だ、お前も登れ”と要求した。黒澤だ三船だと何かと引き合いに出され言われるのは日本人の役者が海外の監督に使われる際の演技指導アルアルになっている。それで初めて敏郎さんの凄さに気づく、初めて黒澤作品を見る、というような日本人俳優は少なくない。
 
トリビュートされるのはいいことである。でも少し悲しい。このサイトもトリビュートのひとつ。だからやっていて少し悲しい。敏郎さんの不在をいちいち思い知るのは悲しいから。しかしやらずにはおれない。